シテ(主役)
能の主役。仕手、為手。一曲のなかで絶対的な重さをもつ演者であると同時に、演出、監督の権限を有する。つねに現実の男性の役であるワキに対し、シテは女・老人・神・鬼・霊などにも扮(ふん)し、能面をつける特権をもつ。前後2段に分かれ、シテがいったん楽屋などに退場(中入(なかいり))する能では、中入前を前シテ、中入後を後(のち)ジテとよぶ。
「竹生島」(ちくぶしま)
大臣たち(ワキ・ワキツレ)が琵琶湖に浮かぶ竹生島詣を訪れる。竹生島は奈良時代より神の棲む島として信仰の対象でもあった。
大臣たちは、一隻の釣舟に便乗したいと申し出、舟に乗っていた漁翁(シテ)と若い女(ツレ)はとともに舟に乗り、琵琶湖の春の景色を楽しみながら竹生島へと向かう。到着すると、翁と女に案内されて島の守り神・弁才天に参詣するが、聖域に女が足を踏み入れていることを不審に思う。しかし翁と女は、弁才天は女神であり、男女の別なく人々を救済してきたのだと教え、自分たちは、その神なのだと告げて姿を消してしまう。
夜、大臣たちの前に、弁才天(後ツレ)が現れ、美しい舞を見せ、次いで琵琶湖の竜神(後シテ)が水中から出現して宝珠を臣下たちに献上して舞を見せる。
神が登場する能は、脇能といい、5つに分類されている曲種のひとつ。この「竹生島」琵琶湖の春の景色を謡った前半ののどかさと後半の弁才天、竜神が登場して一気に盛り上がるところが見どころとなっている。
「三輪」
「三輪」舞台は大和の国(現奈良県)、三輪山中に庵を結ぶ玄賓僧都(ワキ)のもとに、女(前シテ)が花水を捧げにやってくる。秋のある日、玄賓僧都は、夜寒をしのぐ衣を女に授ける。女は、自分は三輪の里に住む者だと名乗り、杉の木を目印に訪ねて来てほしいと告げて姿を消す。
そこへ里の男(アイ)が現れ、玄賓の衣が三輪明神の神木の杉に懸かっていたと言う。先刻の女こそ三輪明神の化身であった。玄賓が神木のもとへ行くと、三輪明神(後シテ)が現れ、玄賓に感謝し、かつて男の姿で現れて、女のもとへ通ったことを語る。さらに、玄賓僧都から授かった衣こそが罪の苦しみを和らげる法の恵みであると告げると、その礼に天岩戸の舞を見せ、神の神秘を見せるうちに夜が明けていくのだった。
ホーム画面の写真は、後半の舞の場面。